社内専門家から聞き出す技術

取材準備と質問設計:専門家が「答えたい質問」から「答えるべき質問」へ誘導する

社内専門家へのヒアリング:知識をコンテンツに変えるプロセス
ホワイトペーパー制作サービス 編集部

取材が終わって録音を聞き返すと、「なぜここで深掘りしなかったのか」と後悔する。専門家の話を聞きながら「大体わかった」と思っていた部分が、書こうとすると具体性のかけらもない、という経験を何度もした。準備の質が原稿の質に直結する、という話を書いた。

専門家は「答えたい質問」に答える

取材の場で専門家は「質問されたこと」に答えるのではなく、「自分が答えやすいこと」「自分が話したいこと」に向けて話を展開する傾向がある。これは悪意ではなく、自然な反応だ。自分の得意な話題、自社の強みが出る話、以前から整理できていた説明——そういう方向に話が流れる。

取材者がそれに気づかないと、1時間の取材が終わった後に「よく聞けた」と感じながら、実は書きたかった核心がほとんど引き出せていない、という事態が起きる。録音を聞き返して初めて「この部分、もっと掘り下げるべきだった」と気づく。

この問題を防ぐには、取材の途中で「今、自分が必要な情報を得られているか」を常に確認しながら進む必要がある。そのためには、取材前に「何があれば原稿が書けるか」を明確にしておくことが出発点になる。

準備の「本当の目的」

取材前の準備として「基礎知識を調べておく」とよく言われる。これは正しいが、準備の目的はもう少し具体的だ。

基礎知識を調べることで「一般的に言われていること」がわかる。そこから「一般論ではわからないこと」のリストが作れる。このリストこそが、取材で聞くべき内容の核心だ。公開情報でわかることを専門家に確認する時間は、もったいない。

もう一つ準備でやっておくことがある。「自分が想定する答え」を事前に書いておくことだ。「この質問をしたら、たぶんこういう答えが来るだろう」という予想。実際の答えと食い違ったとき、「なぜ自分の予想と違ったのか」を掘り下げる質問につなげられる。予想通りの答えが返ってきたときは、一段深い具体例を求めるサインにする。

準備でやること:公開情報を読んで「一般論」を把握 → 「一般論ではわからないこと」リストを作る → 「専門家が答えそうな内容」を事前に書いておく。この3ステップがあると、取材中に「想定外の答え」が来たときに即座に反応できる。

主導権を保つ技術

専門家は自分の話したい方向に話を展開しようとする。それを止めるのは失礼に見えるかもしれないが、取材者が主導権を持たないと、読者にとって必要な情報が得られないまま終わる。

有効なのは「開く質問」と「閉じる質問」の使い分けだ。開く質問(「どのような状況でそれが起きますか」)で相手が話し始める方向を探り、答えの中で重要な部分を見つけたら閉じる質問(「それは具体的にどのくらいの頻度でしたか」)で深掘りする。

話が逸れていると感じたら、「少し戻って確認させてください」と明示的に方向を変える。これは取材相手への失礼にはならない。むしろ「質問が整理されている人」という印象を与え、相手が話しやすくなることが多い。

話の途中で「今おっしゃった○○というのは、つまりこういうことですか」と言葉で確認することも有効だ。専門家は自分の発言が正確に理解されているかを確認したがる。この確認が、取材の精度を上げる。

「当たり前すぎて言わなかった」を引き出す

ホワイトペーパーにとって価値がある情報の多くは、専門家が「こんなことは常識だから言わなくていいだろう」と判断して話さないことの中にある。

「御社の技術の強みはどこですか」と聞いて出てくる答えは、たいてい整理済みの説明だ。それは有用だが、読者の理解を本当に変えるのは「プロが当たり前に知っていることで、非専門家が知らないこと」だ。

これを引き出すには、「読者の代理」として質問を続けることが有効だ。「初めてこの製品を導入する担当者が一番迷うのはどこですか」「よくある誤解はどんなものですか」。こういった質問は、専門家が「そんな初歩的なことか」と思いながら答えてくれる内容の中に、読者が本当に必要としている情報が含まれていることが多い。

また、失敗事例を聞くことも忘れない。「うまくいかなかったケースはどんなときですか」。成功事例だけのホワイトペーパーはPRに見える。失敗の文脈を入れることで、内容に現実感が生まれる。

録音が止まった後に始まること

取材の場で何度か経験したことがある。録音を止めて「ありがとうございました」と言った後、専門家がふと「そういえば、これは言っていいか確認してからですが……」と話し始めることがある。あるいは「こっちの話の方が面白いかもしれないですが」と、別の切り口を示してくれることがある。

これがオフレコ発言だとしても、「こういう視点があること自体は記事に使えるか」を確認できる。また、こうした会話の中で専門家の「本当の関心事」が見えてくることがあり、次の質問設計に活かせる。

取材の最後の5分は、最初の1時間とは違う話が出やすい。専門家の緊張がほぐれていて、「今日一番言いたかったこと」が出てくることがある。この時間を軽く扱わない方がいい。

ファクトチェックは信頼の継続

初稿ができたら、数字・固有名詞・技術的な主張を取材相手に確認してもらう。全文を読んでもらう必要はない。「この部分の事実関係だけ確認してください」と絞って送ると、相手の負担が減って協力を得やすい。

ファクトチェックは誤りを防ぐためだけではない。専門家が「ここは少し表現を変えてほしい」と言ってくれることがあり、そこから追加の情報が得られることがある。原稿を読んで「実はもう少し正確に言うと……」という補足が来るのは、取材では引き出せなかった情報が出てくる機会でもある。

取材からファクトチェックまでの関係を丁寧にすることで、次の制作でも協力してもらいやすくなる。社内の専門家との関係は、一回限りではなく継続的なものとして扱う価値がある。

取材の目的は「専門家の言ったことを記録する」ことではない。「読者が理解できる形で専門知識を引き出す」ことだ。この違いを意識すると、準備の質も問いの設計も変わってくる。

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