「何ページにしますか」という問いの立て方
制作の初回打ち合わせで、よくこの質問が出る。「何ページ程度を想定していますか」。悪い質問ではないが、答えを先に決めると問題が起きやすい。
「10ページで作ろう」と決めた時点で、10ページを埋めることが目的になる。7ページで伝えたいことが伝わりきっていても、3ページ分の何かを探すことになる。逆に「コンパクトに4ページで」と決めると、本来必要な根拠や具体例が最初から削られる。
ページ数は伝えたい内容の量が決まった結果であって、最初に設定するものではない。目安として知っておく意味はあるが、目安に内容を合わせるのは順序が逆だ。
コンテンツタイプ別の目安と、その理由
とはいえ、まったく見当がつかない状態では設計できない。コンテンツのタイプ別に、実際に読まれやすい幅がある。
| タイプ | 目安 | なぜその幅か |
|---|---|---|
| 課題提起・入門解説 | 4〜8ページ | 「概要をつかむ」目的で読む。これ以上長くなると「思ったより重い」と感じて途中で閉じられる |
| 技術解説・詳細ガイド | 8〜14ページ | 「詳しく知りたい」読者が対象。薄すぎると信頼性が下がる。ただし14を超えると読了率が落ちやすい |
| 調査レポート・データ主体 | 12〜20ページ | グラフや表が多く1ページの情報量が少ない。ページ数が多くても読まれやすい特性がある |
| 導入事例 | 4〜8ページ | ストーリーが主体。冗長にすると「どこに結論があるか」がわからなくなる |
| チェックリスト・テンプレート | 2〜6ページ | 実用性が命。使いにくいチェックリストは使われない |
「10ページを超えると読了率が落ちる」という感覚は、複数の制作を経て積み上がったものだ。もちろん内容によるが、読者に「これは長い」と思わせた時点で読み方が変わる。流し読みになり、欲しい情報だけ拾って終わる。それ自体が悪いわけではないが、「精読してもらう前提」で設計した文章は流し読みに耐えない構造になりやすい。
ページが増える引力の正体
実際に作ってみると、たいてい予想より長くなる。なぜかというと、ページを増やしたがる力が制作の各段階に存在するからだ。
発注側の心理として、「薄く見えると困る」がある。10ページあれば「ちゃんとしている」という安心感がある。これは読者の感覚ではなく、発注側の感覚だ。読者は薄い資料でも、役に立てば満足する。
レビュー段階でも追記が積み上がる。複数の部署がレビューすると「自社のこういう取り組みも入れてほしい」という要望が来る。それぞれは正当な要望だが、全部入れると文書の論旨が散漫になる。
ライターや編集者も無意識に「念のため」を書く。「これも関連するから一段落入れておこう」という判断を積み重ねると、本筋から外れた情報が増える。
1ページ=1ページではない
ページ数と並んで、情報密度を意識する必要がある。同じ8ページでも、読み終えたときの情報量は制作によって大きく変わる。
グラフが1枚あるページと、テキストが800文字あるページは、同じ「1ページ」でも読者の処理コストが違う。図や表が多い資料は視覚的なページ数は増えるが、読み疲れは少ない。文字ばかりのページが続くと、同じページ数でも「重い」と感じられる。
もう一つの問題は「水増しページ」だ。具体的な情報が薄いのにスペースを埋めようとした結果、当たり前のことを言い換えただけの段落ができる。読者はこれをすぐ察知する。「このページ、読まなくてよかったな」という体験が積み重なると、資料全体への信頼が下がる。
プロが確認するのはページ数ではなく「このページで何がわかるか」だ。読んだ後に一文で言えないページは、情報設計が甘い。
削る判断が品質を決める
ホワイトペーパーの質を決める編集作業のなかで、「削る」が最も難しい。書いた人間は自分の文章に愛着があるし、発注側も「入れてほしい」と言ったことを後で削るのは感情的に難しい。
削る判断の基準は一つだ。「この情報が抜けると、読者の理解や判断に影響があるか」。影響がなければ削っていい。「補足として入れておく」という文章の多くは、この基準で不要と判断される。
削ることへの抵抗を減らす方法として、「別資料に回す」という考え方が使える。今回のホワイトペーパーには入れないが、関連ページやFAQとして別の場所で公開する。「なかったことにする」のではなく「使いどころを変える」と捉えると、合意が取りやすくなる。
実務での決め方
制作開始前にページ数の目安を出す手順として、次の方法が使いやすい。
目次案を箇条書きで作り、大見出しと中見出しに整理する。次に「この見出しは1ページで収まるか、2ページ必要か」を粗く見積もる。図や表を入れる箇所にはそのページを追加する。合計を出す。
この見積もりが目安の幅に収まっていれば、そのまま進む。大幅に外れるなら、どの論点が本当に必要かを整理し直す。この作業を最初にするかどうかで、後からの修正コストが大きく変わる。
もう一つ覚えておきたいのは、「ページ数は後から増やせるが、後から削るのは難しい」という事実だ。初稿の段階で必要最小限に絞っておき、レビューで「ここは追加した方がいい」と判断したものを入れる方向の方が、最終的な品質が保ちやすい。最初から盛り込んで後で削る方向だと、削られた部分に関係する人が不満を持ちやすい。
「何ページにするか」ではなく「読者がこの資料を読み終えたときに何を持って帰るか」を先に決める。それが決まれば、必要なページ数は自然と決まる。目安はその答え合わせに使うものだ。